[ オピニオン ]
(2016/1/26 05:00)
財務省が25日に発表した2015年(暦年)の貿易統計速報によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は2兆8322億円の赤字で、5年連続赤字となった。ただ赤字額は前年比77・9%減と、東日本大震災が発生した11年以降では初めて減少した。経済政策「アベノミクス」の果実でもある円安に原油安の追い風が加わり、日本の”稼ぐ力“を示す経常収支の黒字基調を支えている。
だが楽観はできない。輸入は原油安を背景に同8・7%減と減少したが、肝心の輸出は中国はじめ新興国の経済減速により同3・5%増と伸び悩んだ。数量ベースでは輸入が同2・8%減、輸出が同1・0%減とともに減少し、収支は“縮小均衡”によって改善したに過ぎない。政権が目指す「国内総生産600兆円」実現のハードルは依然として高い。
年初から日本経済をめぐる懸念材料が尽きない。為替相場は円高基調に転じ、株価も大きく下落している。中でも円高は日本企業の輸出には一段の逆風で、日銀が28日から開く金融政策決定会合で追加の金融緩和を講じるかどうかに市場の関心が集まる。
とはいえ、毎年80兆円もの国債を購入する日銀の金融緩和に、手詰まり感があることは否めない。追加緩和には賛否両論がある。足元の円高は株価ほどの急変動ではなく、これを上回る原油安で企業の増益が期待される。そうした分析に基づけば、緩和の必要性は乏しいともいえる。一方、原油安は需要サイドの増益効果以前に、産油国経済の打撃による世界経済の先行き不安などの課題を抱える。負の連鎖が日本経済に及ぶことも警戒しなければならない。
中国経済には当面、原油需要を底上げする力は期待できない。産油国や米国産シェール・オイルが年後半から減産に入るとの予測に過度に期待するのも危険だ。
日本では16年度は、税率10%への消費増税を控えた駆け込み需要が見込める。その間に新成長戦略の早期立案・執行や今春闘での賃上げを通じ、内需主導の成長に弾みをつけたい。これが当面、政権にとっての最大の課題である。
(2016/1/26 05:00)