[ トピックス ]

深層断面/世界をリードする日本の機能性繊維−東レなど積極投資

(2017/6/28 05:00)

【スポーツカジュアル追い風】

東レや帝人など化学繊維メーカーが、機能性を持つ衣料用素材への積極投資を打ち出している。日本メーカーは新興国の攻勢で汎用繊維を中心に事業を縮小してきたが、スポーツ衣料などの市場拡大で多様な機能を持つ繊維や生地は、生産技術の高い日本勢が優位に立つ。各社の展開を探る。(小野里裕一)

【ここ数年のトレンド】

  • 展示会には各社が売り出す機能性素材が並ぶ

伸縮性や速乾性、防水性、透湿性、静電気を防ぐ導電性、天然繊維の風合い―。大手繊維メーカーの素材展示会には多様な機能性素材が並ぶ。ここ数年で急激に強まったトレンドだ。

アパレルメーカーは展示会から約1年半後の新作の発売に向け、季節ごとの展示会で化学繊維メーカーの開発動向を把握する。最新の素材を自社の衣料品に取り入れられるかが、売り上げを左右する重要なポイントだ。化学繊維メーカーは新たな素材の機能を丁寧に説明し、吟味するアパレルメーカー担当者の目も真剣だ。

化学繊維は手入れに手間のかかる天然繊維に比べ、洗濯後にアイロンがけが必要ない「形態安定機能」など手入れの簡便さや伸縮性などを訴求。スーツやシャツなどのビジネス衣料を中心に販売を伸ばしてきた。綿が根強く支持されてきた体操着などの学童用品にも、ポリエステルなどの化学繊維製品が増えるなど、採用領域は広がり続けている。

ここ数年の「スポーツカジュアルファッション」市場の拡大は、機能性素材の需要伸張に本格的に火を付けた。同市場はスポーツ用のジャケットやシャツ、パンツなどをカジュアル衣料向けにデザインし、その機能性を普段着にも取り入れる動きだ。伸縮性や通気性などの快適性を前面に押し出し、衣料品購入の主役である10―30代の支持を集めている。製造直販型小売業(SPA)の大手アパレルもスポーツカジュアルに力を入れている。

【市場規模422億円】

市場調査会社の矢野経済研究所(東京都中野区、水越孝社長、03・5371・6900)によると、2016年のスポーツカジュアル衣料を含む「ライフスタイルウエア」の市場規模は422億円(見込み、メーカー出荷額ベース)。少子化などでスポーツ衣料全体の出荷額が横ばいとなる中、前年比2・9%の成長を見せた。17年は前年比3・3%増の436億円を予想する。

比較的高価な衣料品を販売するセレクトショップがスポーツブランドの商品の取り扱い数を増やしたことも市場が伸びる要因としている。

【新製品開発を加速】

  • プライムフレックスに使うバイメタル構造のポリエステル繊維

「とても有望な市場だ」。化学繊維最大手、東レの繊維事業を統括する大矢光雄専務は今のスポーツカジュアル衣料市場をこう評する。東レは17年から3カ年の繊維事業(産業資材含む)における設備投資に1000億円を投じることを決めた。衣料用の機能性繊維や生地の生産量拡大にも多くを割く方針だ。同業の多くは海外に生産を移しているが、日本の原糸生産の維持も重要課題の一つとし、繊維産業が集積する北陸地方などで新製品開発などを加速するとみられる。

同社スポーツ・衣料資材事業部の浅田康治部長が「この先20年、30年かけて看板ブランドに育てたい」と意気込むのが、やわらかな伸縮性を訴求する新たな生地ブランド「Primeflex(プライムフレックス)」。スポーツカジュアル衣料などに向け、17年の春夏シーズンを対象に16年に発売した。

ブランド設立に合わせ開発したのが、異なる2種類のナイロンポリマーを貼り合わせた「バイメタル構造」繊維を使用したナイロン生地だ。ナイロンを使用した伸縮性素材にはポリウレタン弾性繊維を配合したものなどがあったが、「フィット感が強すぎる」(浅田部長)などの課題があった。バイメタル構造のナイロン繊維はコイル状になることで伸縮性を向上する。これに織り編み時の緻密な設計によって、ポリウレタン繊維を配合したものよりも、やわらかい伸縮性を実現した。18年度はブランド全体で200万メートルの販売を目指す。

【ビジネスモデル転換】

  • デルタで試作したパーカージャケット

帝人もスポーツカジュアル衣料などに使用する機能性素材への積極投資を打ち出す。詳細は詰めている段階だが、数十億円を投じ、中核品のポリエステル(一部ナイロン)生地「デルタ」などを増産する方針だ。デルタは伸縮性や形態安定性、嵩高性を同時に備えるなど性能バランスが良く、日本市場に参入する海外の大手スポーツブランドからの引き合いが増えている。

19年度末までにデルタの生産量を現状比70%増やす。同社は新たな中期経営計画で祖業の衣料用素材の「ビジネスモデルを転換する」(鈴木純社長)と打ち出しており、機能性生素材の拡大に大きくかじを切った。

【得意技術に磨き】

  • 美しい光沢が特徴のソアロン

三菱ケミカルも機能性素材の需要家開拓を強化する。同社の特徴は業界で唯一、トリアセテート長繊維を生産することだ。アセテート繊維は高純度の木材パルプを無水酢酸と反応させてつくるアセテートフレークを原料とする半合成繊維。絹のような光沢と吸湿速乾性が持ち味だ。「ソアロン」ブランドで高級婦人服向けに販売してきたが、このところ国内大手スポーツメーカーへの販売が目立つようになってきたという。

旧カネボウの繊維事業を継承し注目されたセーレンも2種類の異なるポリマーを貼り合わせて紡糸するコンジュゲート糸(複合繊維)を17年中に前年比10%増産し、機能性素材の事業拡大を狙う。同社はナイロンとポリエステルを1本の長繊維として紡糸する「ベリーマX」など約40種類の複合繊維をそろえる。ベリーマXは放射線形状のナイロン部分にくさび形のポリエステル部分が張り付き、1本の繊維を構成する。

この繊維を化学処理で分割することで、超極細繊維を製造できる。この繊維でつくった生地は透湿性や低発塵性などを持ち、衣料用途のほか、エレクトロニクスの製造ラインの拭き取りクロス用途もある。市場拡大を追い風に、各社が得意の技術でしのぎを削っている。

(2017/6/28 05:00)

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