[ オピニオン ]
(2018/3/26 05:00)
米中の二大大国が“貿易戦争”に陥る可能性を懸念し、為替相場はリスク回避の円高基調にある。日本は先行き不透明な相場を過度に警戒せず、米国を除く環太平洋連携協定(TPP11)の早期発効を主導するなど、自由貿易の枠組みを堅持する役割を担いたい。
トランプ米政権が強硬に保護主義を推し進めている。鉄鋼・アルミニウムに新たな関税を課す輸入制限を講じたのに続き、中国の知的財産権侵害をめぐり通商法301条に基づく大統領令に署名した。11月の米中間選挙を控えて貿易赤字削減策を表明することで、脱工業化が遅れた“ラストベルト”での支持固めとの思惑が覗く。
一連の保護貿易は世界貿易機関(WTO)ルールの枠組みでは対中貿易赤字を改善できないとの米側の判断がある。中国製鋼材の多くが他国を迂回(うかい)して米国に流入しているとされ、知的財産権をめぐる中国の商慣習も一向に是正されない。
問題は、中国をはじめ主要国が報復措置を講じれば世界経済の成長が鈍化する懸念があること。さらに鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を解除する見返りに新たな市場開放を求められるなど、日本にも少なからぬ影響が及ぶ可能性が残る点だ。
日本の対米輸出は高級鋼材が多く、代替が難しいため影響は軽微との指摘がある。だが米国が輸入制限解除の条件として2国間の自由貿易協定(FTA)交渉を迫る可能性がある。トランプ政権は自動車や農畜産物の市場開放をかねて訴えている。
日本としてはTPP11の承認案を今国会で早期に成立させ、11カ国中で最も早く国内批准を済ませたい。トランプ大統領は一方で条件付きながらTPP復帰の可能性に言及しており、日本はTPP11の早期発効を主導することで米国の保護貿易路線を牽制してもらいたい。
足元の円高基調も、米中が通商面で歩み寄り、堅調な米国経済を市場が見直せばドル高基調に戻る可能性がある。日本は為替動向に一喜一憂せず、自由貿易が米国の国益に資することを粘り強く訴え続けたい。
(2018/3/26 05:00)