(2024/4/19 12:00)
約20年にわたる地域の健康人のビッグデータ(大量データ)を土台とし、他にない産学連携活動で知られるのは弘前大学だ。年約7億円を稼ぐ共同研究講座はヘルスケア関連だけでなく、マツダやNECも新たに参加して計24講座に上る。歯科やうつ病・認知症の初期もチェックする「QOL健診」は、連携する明治安田生命保険が、顧客に加えて従業員の健康増進のために全国展開を開始した。
身体に関わるビッグデータを研究・社会貢献の武器にと期待する大学や病院は多いが、患者の診療データが大半だ。対して弘前大学の場合は、弘前市岩木地区での健診を通して集めた、健康な住民のビッグデータなのがポイントだ。3000項目で約20年、延べ2万人以上が参加という蓄積が圧倒的だ。
これに各企業独自の知見やデータを掛け合わせた産学連携事業を、文部科学省の支援で約10年前にスタート。現在の「共創の場形成支援プログラム(COIーNEXT)」では社会実装による経済発展モデルと、子どもの時から支援を始める全世代アプローチに重点を置いている。
大手企業が個別に同大と行う共同研究講座における、今春の新顔はマツダとNECだ。センサー技術とデータ解析の強みを持って、運転者や歩行者の健康のチェックや増進を行おうとしている。
講座で開発してきた技術や機器は「生活の質(QOL)健診」でパッケージ化されている。メタボと運動機能低下の「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」、歯科・口腔(こうくう)チェック、うつ病・認知症という四つの重要テーマにアプローチする。同大の村下公一健康未来イノベーション研究機構長・教授は「健康意識が低い層の行動変化を促すのが狙いだ」と説明する。地元市民や青森銀行、タクシー会社の北星交通などで実績を積みつつある。
これを発展させた健康啓発型イベント「QOL健診 明治安田×弘前大学」も4月に始まった。ユニークな測定法が参加の動機づけになる。例えばライオン歯科材などが提供する唾液検査は、少量の唾液の機器測定で、歯と歯茎の健康に関わる6項目を測定する。
カゴメなどによる「推定野菜摂取量」は手のひらをセンサーにおき、皮膚のカロテノイド量を調べて普段の野菜摂取状況を引き出す。花王などの内臓脂肪測定は着衣のまま、正面と側面の全身写真を撮影し、推計アルゴリズムにより内臓脂肪量をシミュレーションする。「ここで集まるデータを岩木データと組み合わせれば、人工知能(AI)が病気リスクを判定するなど高度な分析が可能になる」と村下機構長は次の発展を期待する。
適用は生活習慣病の増加が問題になるベトナムなど途上国にも広がる。国際協力機構(JICA)の支援で現地企業社員のQOL健診を実施したり、医師の研修を受け入れたり。地域から世界へという地方大学の理想のモデルを築きつつある。
(2024/4/19 12:00)
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