半導体産業 EVに不可欠なパワーデバイスの現状と将来

(2021/3/19 05:00)

業界展望台

名古屋大学未来材料・システム研究所

名古屋大学工学研究科

電気工学専攻 教授・工学博士 山本 真義

電動車(xEV)に位置づけられている電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)に搭載されるインバーターは、複数のパワー半導体から構成され、現時点では性能の限界を迎えている。これに対して次世代パワー半導体には電動車の性能向上が期待されている。EVの量産車として次世代パワー半導体の採用に先駆けた米・テスラモーターズは日本の電機業界、自動車業界にとって黒船ともいえるものである。日本の産業はその危機感を共有し、新たな次世代技術への研究開発に大きくかじを切るときを迎えている。

自動車「電動化」の潮流/SiC搭載量産車 登場

かつて家電を中心として世界市場を席巻した日本の電機業界が、現在の自動車業界の「電動化」の潮流に乗っていることは僥倖(ぎょうこう)といえる。1997年にトヨタ自動車が発売した初代プリウスが背景にあると捉える。

ここでの電動化は2020年12月17日、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ社長)がオンライン懇談会で「『電動化=EV化』ではない」と断言したように、HVを含んでいる。この電動化の技術的な視点でのカギは“パワー半導体"にある。

一般的な電動車の電気機構はエネルギー源であるバッテリー、動力出力機構であるモーター、さらにモーターの出力を運転者の意思に沿わせて自在に変化させるインバーターから構成される。インバーターは六つのパワー半導体から構成され、このパワー半導体は地球上で2番目に多い元素であるシリコン(Si)から成り立つ。

20年1―3月期はテスラが17年に投入したEV廉価車「モデル3」が全米トップセールスを記録した。さらに、新車・中古型車を含む全自動車販売台数の21%(2万7700台)を同社の全EVが占めた。同社は自動車メーカーとしては、世界唯一の本格的量産型EV専門メーカーで、全ての販売車両は電動車の代表格といえるEVである。

電機業界としての激震は、これまでのパワー半導体が前述のSiで構成されているのに対し、モデル3は量産型EVとして世界で初めてインバーター向けパワー半導体として炭化ケイ素(SiC)を搭載したことにある(図1)。

  • モデル3に搭載されたSiCパワー半導体

パワー半導体材料の革新

インバーターにおけるパワー半導体材料の革新は、パワーエレクトロニクスに携わる研究開発者の夢であり、電動車の性能を飛躍的に高めることに大きな貢献を果たす。

この電動車の高性能化に直接影響を及ぼすのは、パワー半導体のエネルギー損失である。パワー半導体により構成されるインバーターは、電気的に直流(DC)であるバッテリー電圧を、パワー半導体がスイッチとして機能する。プラス側とマイナス側にスイッチングして振り分けることで交流(AC)を生成し、所望のモーターの駆動を担う。

パワー半導体は理想的なスイッチとして機能したいが、現実には電流導通時、加えてスイッチング動作のオン・オフ時にそれぞれエネルギー損失が発生する。そして、電気的な損失は全て熱としてインバーターから放出(発熱)される。

この発熱を抑制するため放熱機構が必要となり、結果として電動車の居住空間を狭め、車重を増加させる。

電力変換用としての半導体は長期間、Siパワー半導体が使用されてきた。1970年代から研究が続けられてきたSiCパワー半導体は、その材料特性によるエネルギー損失の低減効果に、エネルギーの省エネルギー利用への大きな期待が寄せられてきた。

SiC研究の焦点

しかし、ここ20年間の自動車業界における電動化の波に押される形で、SiCパワー半導体の車載応用がパワーエレクトロニクス業界の大きな研究開発の焦点となっていた。その車両システム効果は明確に二つある。一つ目はHVにおける燃費向上、二つ目はEVの航続距離拡大である。

SiCパワー半導体の電動車への適用は、前述の電流導通時、スイッチング時の双方のエネルギー損失低減を実現できる。

  • SiCパワー半導体を搭載したモデル3

そのことからHVでは、SiCパワー半導体のスイッチング周波数増加の恩恵を受ける受動素子が小型化でき、インバーターに代表されるパワーエレクトロニクス機器の小型軽量化が可能となる。

EVではインバーターの高効率動作による一回の充電(一充電)に対する航続距離の延長が実現する。

SiCパワー半導体を搭載したテスラのモデル3は、その航続距離性能が市場に受け入れられ、新型コロナウイルス禍においてもワールドワイドでの販売増を続けている(図2)。

現在では、次世代パワー半導体としてSiCだけではなく、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム、ダイヤモンドといったより低損失なパワー半導体が台頭してきている。

パワー半導体と電動車を融合

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の代名詞であったわが国の電機業界が、これらパワー半導体と電動車を融合し、ゼロエミッション社会を実現する次世代技術を開発することは、電機業界が力強く復興し、再び世界をけん引することを期待している。

(2021/3/19 05:00)

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