[ オピニオン ]
(2017/1/13 05:00)
不透明な経済状況の中にあって、産業界が賃上げに前向きな姿勢で臨む方針を固めたことを高く評価したい。
間もなく始まる2017年の春季労使交渉(春闘)で、経団連は経営側の指針となる経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)を17日に正式決定する。収益体質が改善している企業に対し、16年に続いて年収ベースでの賃上げを前向きに検討するよう求める内容だ。
積極的な賃上げを期待する安倍晋三政権に歩み寄ったものといえる。同時に賃上げだけで消費喚起、デフレからの脱却は実現困難として、社会保障制度改革推進や教育費の負担軽減を図るよう政権に注文を付けた。
経労委報告では「16年並みの水準の賃上げ」や「4年連続のベースアップ(ベア)実施」に強いこだわりを示す政権の要請に、経営側がどこまで応えるかが焦点だった。米トランプ新政権の経済政策への期待感から、足元の為替水準は円安に振れている。ただ企業収益環境の好転には確信が持てない。固定費の増大につながるベアに対しては賛否が分かれ、16年末時点ではあくまで「選択肢の一つ」との位置づけだった。
にもかかわらず、最終的にベアは、定期昇給や制度昇給、賞与・一時金の増額などと並ぶ「柱」と、より踏み込んだ表現で決着した。これは何としても賃上げの勢いを持続させたいという榊原定征会長の意向を反映したものだ。政権と二人三脚で日本経済をけん引する産業界の強い思いがにじむ。
政権が賃上げの旗振り役を演じる“官製春闘”は4年目を迎える。日本商工会議所の三村明夫会頭は「デフレからの脱却局面で、経営者のマインドを変えようと政府が賃上げを主導するのは適切だった」と理解を示した上で「同じ手法を継続するのはいかがなものか」と疑義を呈する。
個別の企業・業界の交渉はこれからだ。ただ政府には、賃上げを消費喚起につなげる道筋を見いだす責務がある。それができなければ、産業界の努力は意味をなさなくなる。
(2017/1/13 05:00)