[ オピニオン ]
(2017/3/16 05:00)
「賃上げありき」の従来型春闘から、新たな「働き方改革」への脱却が必要だ。
大手企業の2017年の春の労使交渉(春闘)では、経営側は労働側が要求したベース・アップを4年連続で受け入れた。ただ平均の上げ幅は前年に続いて縮小し、4年間で最小にとどまった。景気の先行きが不透明な中で、労使双方が真剣に対話した結果と評価できよう。
政府が経営側に賃上げを要請する異例の“官製春闘”も4年目。経団連はじめ経営側は、この求めに誠実に応じた。デフレ経済下で伸び悩んでいた賃金は明らかに改善した。さらなる固定費の上昇に経営側が警戒感を強めるのは当然であり、経済情勢の変化とともにベア縮小という今回の回答に結びついた。
ただ企業がベアを4年続けてもデフレ脱却に至らない日本経済の現状に、目を背けてはならない。大手企業の多くは、ベアの回答額を景気浮揚の指標とする方法を疑問視してきた。中流層の可処分所得が増えても、必ずしも消費は上向かない。それが明確になったといえる。政府は今後、脱デフレ政策のあり方を見直し、本筋である成長戦略に取り組む必要があろう。
こうした産業界の指摘を受けて、政府は昨年から軸足を「働き方改革」に移しつつある。中流層は賃金の増額より、過大な残業の削減や育児・介護などの休暇拡大を求めている。一方、非正規労働者とひとくくりに呼ばれる低所得層は所得向上の意欲が強く、これが実現すれば消費の拡大に直結する。
今春闘では働き方改革でも成果があった。話題を呼んだヤマト運輸の宅配総量抑制や、政・労・使が合意した残業時間の上限は、労使が直面する問題にまっすぐに切り込んだ結果といえる。それはホワイトボードに数字を書き並べて勝敗を論じる旧来のベア型春闘ではカバーできない領域である。
次は中小企業の春闘だ。従業員の少ない中小にとって、大手のような働き方改革を進めることはベア実施以上に重い課題となる。政府には、この支援となる制度を求めたい。
(2017/3/16 05:00)