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深層断面/CFRP・アルミ、量販自動車に採用拡大

(2017/7/12 05:00)

自動車への炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アルミニウムの採用が拡大している。いずれも成形しづらい材料だが、世界的に自動車の環境規制や燃費向上のための軽量化ニーズは強く、プレス機械メーカーや加工会社が技術開発など対応を求められている。アルミ、CFRPをめぐる自動車、材料、機械メーカーの動向を追った。(六笠友和、土井俊、斉藤陽一、小野里裕一)

量販車にCFRP/アルミは欧米先行

  • 日産のスポーツカー「GT−R」の17年モデルには、フードやラジコアサポートなどにCFRPが用いられている

自動車メーカーはこれまで、スポーツカー向け部品を中心にCFRPを取り入れてきた。世界的に環境規制が強まる中、車両の軽量化・燃費改善につながる部材として、今後は量販車での採用拡大も期待される。

日産自動車はスポーツカーの「フェアレディZ」「GT―R」に採用。GT―Rでは1999年に「同 R34」のリアディフューザーを皮切りに、プロペラシャフトやトランクリッド、バンパーなどの部品に採用を広げている。ホンダはスポーツカー「NSX」のルーフやフロア部分、また燃料電池車(FCV)「クラリティ フューエルセル」の水素貯蔵タンクに用いている。

トヨタ自動車はレクサスの「LC」などに加え、プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」のバックドアの構造部材にも採用。大幅な軽量化を実現した。量販車でCFRPを使うのはまだ珍しいが、今後は採用拡大が期待される。異業種でも需要の伸びを見据え、三井物産がCFRP関連の海外企業に相次ぎ出資している。

自動車各社はアルミの採用にも積極的だが、この分野では高級車中心に採用する日本勢に比べ、欧米車が先行しているようだ。好例が米フォード・モーター。量産車種のピックアップトラック「F―150」の15年モデルで、アッパーボディーをオールアルミ化。旧車種に比べ、約320キログラムも軽量化を実現した。米テスラの電気自動車(EV)「モデルS」もオールアルミだ。

炭素繊維、成形・加工技術高まる-燃費向上・生産コスト低減

炭素繊維は原料のポリアクリロニトリル(PAN)繊維などを不活性雰囲気下で焼成するなどし、炭素以外の元素を離脱させた無機繊維。比重は鉄の4分の1で比強度は10倍。寸法安定性や耐熱性、耐薬品性に優れる。熱硬化性や熱可塑性を持つさまざまなマトリックス樹脂と組み合わせ、複合材料に加工したものがCFRPだ。

CFRPが量販車に使われ始めた背景には、自動車メーカーによる車体の軽量化・燃費改善と成形技術の高度化、生産コスト低減がある。CFRPの重量当たりの生産コストは鉄鋼の5―10倍程度とみられ、主な需要はF1(フォーミュラワン)カーや欧州の高級自動車だった。

  • 三菱ケミの新技術を使ったバックドア構造部材(カットモデル)

成形技術の開発をリードするのは東レ、帝人、三菱ケミカルの炭素繊維メーカーだ。量産車を圧力容器や風車用羽根(ブレード)などと並ぶ市場の“本丸”に位置づけ、成形方法の開発や知見を持つ企業の買収を積極化している。炭素繊維メーカーは樹脂の知見も豊富で、成形時間を短いもので数分単位まで大幅に縮めたほか、自動車メーカーが求めてきた複雑形状部品に対応するCFRPの開発も大きく進展させた。

東レは筒状部品の成形に向く方法で製造したCFRP製のプロペラシャフトを、多くの日系自動車メーカーに供給する。三菱ケミカルは17年に入り、シート・モールド・コンパウンド(SMC)と呼ぶ生産性を向上したCFRPがトヨタの「プリウスPHV」の骨格部材に採用された。

アルミ各社、海外生産を相次ぎ拡大‐現地調達ニーズ高まる

日本アルミニウム協会によると、16年度の車向けのアルミ圧延品出荷量(内需)は、板類と押出類の合計で前年度比4・9%増の30万1546トン、5年連続のプラス。足元の状況も17年5月単月の車向け板類の出荷が、5月として最高を記録するなど好調だ。完成車メーカーや車部品メーカーの海外現地調達ニーズが強まる中、アルミ圧延メーカーの間では海外の生産体制強化が相次いでいる。

神戸製鋼所は、車のボンネットや屋根などに使うアルミパネル材を生産する中国・天津工場を5月に本格稼働した。同社の試算では、中国市場のアルミパネル材需要は現在年約5万トンだが、25年には同30万トン以上へ急拡大する見通し。「中国も先進国並みに環境規制が厳しくなり、軽量化は待ったなしの状況」と神鋼の川崎博也会長兼社長は強調する。

  • 神鋼・天津工場の表面処理ライン

神鋼は真岡製造所(栃木県真岡市)内にも車用アルミパネル材の専用ラインを新設予定。また米国では、バンパーなどに使うアルミ押出品や、サスペンション用アルミ鍛造部品の工場に積極投資を続けている。

UACJは16年11月、タイと米国のアルミ圧延工場の生産能力増強に、総額550億円を投じる計画を発表。人口増を背景とした飲料缶向け缶材の需要増にも対応しつつ、環境規制強化に伴う車用アルミパネル材の採用拡大に向けた生産体制を整える考えだ。

プレス機械、高性能化‐需要増を追い風に

  • アイダエンジがJLRの英工場に納めたプレス機

自動車へのCFRP、アルミの採用拡大を受け、プレス機械各社も対応を強化している。アイダエンジニアリングはテスラや英ジャガーランドローバー(JLR)のアルミ製アウターパネルを成形する超大型プレスラインの供給している。今後も「骨格部品を含めアルミ化が進むと思う」(鈴木利彦取締役常務執行役員)と需要増を想定する。アルミはキズがつきやすく、滑りやすいといった課題がある。同社ではこれらを意識した材料搬送システムを開発した。

搬送システムではエイチアンドエフも、「ドアや屋根に採用されつつあるアルミと、鉄を混在して搬送できる装置」(柿本精一社長)を開発、受注実績を挙げている。

一方、CFRPはコマツ産機(金沢市)が「新しい材料の加工技術の開発を、複数の大学と共同で進めている」(川西宣明社長)。中堅メーカーでは、放電精密加工研究所や榎本機工(相模原市緑区)などが活発に開発に取り組んでいる。榎本機工は炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)を高速成形できるサーボ駆動式スクリュープレスを開発した。

自動車市場の需要拡大を追い風に、CFRPとアルミは材料と加工の双方の技術開発が加速しており、さらに用途が拡大していきそうだ。

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/12 05:00)

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