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深層断面/「貨客混載」期待も課題も−あすから規制緩和、生産性向上に試行錯誤

(2017/8/31 05:00)

路線バスや鉄道で旅客と貨物を一緒に運ぶ「貨客混載」の試みが各所で盛んになっている。地域交通や物流事業者の生産性向上に有効とされ、国土交通省は9月1日から過疎地における規制を緩和する。しかし期待されるほど、バス会社の赤字路線維持や物流事業者の人手不足解消への直接的効果が見込みにくいのが実情だ。先行例から課題を検証し、今後の可能性を探った。(小林広幸)

  • ヤマト運輸・岩手県北自動車の貨客混載専用車両「ヒトものバス」。規制緩和で積載量が増やせるようになる

≪ニーズのマッチ難しく、少量輸送が現実的≫

【路線バスに専用荷室】

ヤマト運輸と岩手県北自動車(盛岡市)は2015年6月から盛岡市―岩手県宮古市で路線バスを乗り継ぐ貨客混載を開始。約80キロメートルの幹線輸送を担い、座席13席分を減らして専用荷室を設けた改造車両「ヒトものバス」を1往復運行している。

バス会社は貨物分の固定収入を確保。「狙った効果は上げられている」(岩手県北自動車)が、当初予定していた他路線への拡充に進展はない。貨客混載に適した路線がなかなか見つからないのだ。

貨客混載は旅客、貨物のサービスレベルを変えず、双方にメリットがある路線での設定が条件。物流事業者のニーズがない路線や時間、旅客輸送に影響が見込まれる場合は実現できない。「ヒトものバス」は朝夕の多客時を避けて運行するが、宮古発の帰り便はヤマト運輸の需要と合わず荷室は空(から)だ。

盛岡―宮古間の急行バスは県都に乗り入れる都市間バスで便数も多い。並行するJR山田線が災害で不通のため代行の役目も担う。他のバスより定員が少ない「ヒトものバス」では想定外の客の積み残しが何度も発生している。

貨客混載はいったん運用を始めると、バス会社の都合だけでやめるのは難しい。便数の多い路線に専用バスを導入するのも、車両運用が硬直化するリスクをはらむ。物流事業者もバスの輸送力を上回る貨物量がある時には、トラックを別に用意する必要が発生する。

バスによる貨客混載は十数キロ―数十キロメートルとある程度の距離がないと物流事業者の効果が生まれにくい。乗客数が少なく、変動も見込みにくい路線が使いやすい。座席や既存荷室の利用による少量輸送が現実的のようだ。

≪積載作業に壁−駅施設の環境整備必要≫

【三セク鉄道定期収入増】

  • 車内の専用スペースへの固定作業は1分強だが、六日町駅ではトラックの駅到着から列車への搭載に30分程度かかる。旅客と同じ動線を利用するため、エレベーターを2度使う

  • 車内の専用スペースへの固定作業は1分強だが、六日町駅ではトラックの駅到着から列車への搭載に30分程度かかる。旅客と同じ動線を利用するため、エレベーターを2度使う

佐川急便と北越急行(新潟県南魚沼市)は4月、六日町駅(同)―うらがわら駅(新潟県上越市)間約47キロメートルで鉄道による貨客混載を始めた。両市間で集配する荷物は、山間部を迂回(うかい)してトラックで運んでいたが、一部を両市を直接つなぐ鉄道に転換した。

利用客の少ない平日夜に貨客混載列車を1日1往復設定。北越急行は北陸新幹線開通により、同線を通過していた北陸方面への特急列車が廃止され、収入が激減した。旅客数人相当の定期収入増は決して小さくない。

両端の営業所から中継駅まではトラックで輸送。運転手は貨客混載専用の台車2台を、トラックから降ろして駅構内を搬送し、列車の数分の停車時間の間に積み込む。荷降ろし時は逆の行程を踏む。

鉄道利用で壁となるのは駅施設の問題だ。トラックがホームに横付けできる環境が整えば作業性は高まる。東京メトロと宅配大手が16年に行った地下鉄による貨客混載の実証実験でも、積載の作業性が課題に挙がった。

また行き先を柔軟にできるバスと異なり、両端の駅から営業所の間のトラック輸送も必要となる。少量貨物では速達性を考慮しない限り、十分な生産性向上の効果が得にくい。

だが駅施設の環境が整えば、輸送密度の低い第三セクター鉄道などでのトラック代替輸送は可能性がある。旅客車両を活用したモーダルシフトを考えてみる余地はありそうだ。

≪地域活性化後押し−将来に備え経験積む≫

【地域課題 宅配が解決】

ヤマト運輸は地域活性化プログラム“プロジェクトG”で貨客混載に取り組む。「地域の課題を事業で解決する」(ヤマト運輸)共通価値創造(CSV)の一環。ハブ&スポークの集配網では営業所と配達エリアを1日に2、3往復する。1往復分をバスに代替できれば、運転手が荷物を取りに営業所へ帰る負担が軽減できる。

荷物量が少なく移動距離が長い中山間地域と中心部との輸送が本命だ。「配達エリアでの滞在時間が増えれば、新しい収入を生み出す機会が作れる」(同)とし、過疎地の生活課題に関する新たなサービス提供も模索する。

貨客混載便を単なる輸送代替だけでなく、地域産物の輸送に使えば、地域活性化にもつながる。ヤマト運輸は貨客混載を行う宮崎県の路線バスに、1月から保冷ボックスを搭載し、農水産品の都市部への輸送を始めた。

佐川急便は「将来に備え、さまざまな経験を積む」(佐川急便)とし、鉄道のほかバスなどでも今後、貨客混載を積極展開する方針だ。普及には「旅客事業者と物流事業者をマッチングする仕組みや、貨物の料金体系などを整備する必要がある」(同)と指摘する。

日本郵便は7月から高知県でJR四国バス(高松市)の路線バスによる郵便局間の幹線輸送を始めた。狙いはモーダルシフトによる二酸化炭素(CO2)削減。従来の郵便輸送と同じ時間帯にバスが運行しており、効率化が見込めるとして初の貨客混載を決めた。

かつて郵便は“鉄道輸送”が主力。旅客列車に郵便車を連結していた。高速道路網の延伸と国鉄改革で、86年からトラックに交代。鉄道輸送は「ハードルが高い」(日本郵便)と再開に否定的だ。

【重量規制の緩和に期待】

貨客混載の規制緩和のポイントは、路線バスの積載重量350キログラムの規制撤廃、過疎地における貸し切りバスやタクシーによる貨客混載と貨物事業者による旅客運送の3点だ。

ヤマト運輸は重量規制の緩和に期待する。多くの荷物が積める貨客混載専用バスも今は規制内で運用しており、「可能性が広がる」(ヤマト運輸)と歓迎する。

一方、過疎地の配達網に有効とされたタクシーの活用はハードルが高い。配達は宅配事業者が最もこだわるサービス。「ラストワンマイル(配達)は自前で」(同)との思いは強い。

佐川急便はタクシーによる配達の実証を検討する。あくまで空車時間の活用とし「“集配専用車”にしない」(佐川急便)ことを前提とするなど、厳しい条件を設ける。病院と山間地の集落を運行する乗り合いタクシーを候補に挙げ、回送距離が長くならないよう配車効率も重視。配達集荷の委託時には、協力会社と同等の運転手教育を課し、サービス品質を維持する考えだ。

宅配事業者による旅客“かけもち”について、大手各社は可能性を否定しないが慎重な姿勢だ。「トラックや集配車に人を乗せるイメージが浮かばない」(日本郵便)。車両の改造や貨物スケジュールに合わせた運行、運転手の2種免許取得など実現への道は遠い。

(2017/8/31 05:00)

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