[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/大学のブランド構築とは、法政大の事例から

(2018/3/8 05:00)

大学の個性や魅力を社会にアピールするブランド構築が注目されている。少子高齢化で大学間競争が激しくなる中、受験生やその親、さらに採用や産学連携の相手となる企業などに対して、より積極的に発信をしようとの考えが強まっているためだ。同時にこの「ブランディング」活動を通じた教職員の意識改革もある。多様な利害関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションや、円滑な大学改革を進める上での後押しにもなろう。法政大学の事例からこれを考えてみたい。

企業活動におけるブランドとは、消費者に伝える特定の優れた商品やサービスに対するイメージ概念というのが元々の意味だが、企業自体が対象となることも多い。大学の場合はこの後者、つまり「他大学とは違う個性的で魅力あるその大学の要素の総体」になる。そしてブランディングは、このブランドを確立して学内外に発信する活動といえる。近年、受験生増が著しいいくつかの私立大学では、ブランディングや広報・宣伝活動の成功が背景にあることが多い。 

法政大学では2014年度に就任した田中優子総長のリーダーシップで、大学憲章「自由を生き抜く実践知」の策定に動いたことが、ブランディング強化の流れを作る転機となった。大学憲章というと響きは堅いが、これは同大が果たす“社会への約束”としての標語だ。意味するのは次のようなものだ。

現実社会では経済力や差別など自由の格差があるが、誰もが自由に生き抜ける社会を構築するという理想を法政大は掲げる。この理想の実現に向けて、大学の知を生かして社会の課題を解決し、社会を導くことが必要だ。同時に実社会で活動を行うことで、新たな知を獲得することも大学としては意義深い。この“実践知”を法政大の根本を支える言葉として位置づける。

標語でありながら、このような説明が必要だという点はまどろっこしい。しかしそのために説明をし、対話を重ねることで、短い言葉の中にどのような思いが託されているのか、相手に深く伝わる点が興味深い。学外への情報発信だけでなく、学内での共通認識構築の段階でも、こうした効果はあったと思われる。

大学憲章の策定に向けて、大学の歴史や現状分析、学内外のヒアリングやアンケートに加え、付属校も含めた教職員のブランディング・ワークショップを10回近く開いた。これによりあいまいだった同大の精神や個性が、教職員の意識に深く根を下ろし、そこから大学憲章の文言が導かれた。策定後も職員階層別の研修を重ね、ブランディング戦略のアクションプラン策定につなげている。

田中総長は「ブランディング構築のこのようなプロセスは非常に有効だ。本学は元々、トップダウン型の運営ではなかったが、教職員それぞれが意見を持つことに加え、ともに行動して力を発揮することが可能になった」と振り返る。

17年には、大学憲章を体現する多様な活動を顕彰し、広く共有・発信するために「自由を生き抜く実践知大賞」を創設した。初回の大賞を、課外活動を教職員有志が30年にわたって支援してきた「自主マスコミ講座」に決め、年末に授賞式を行った。職員部門で選ばれた「大学職員のためのとっさのひとこと英会話」の冊子の作成は、窓口対応の現場で多用されるに留まらず、他大学でも話題になり、後に中国語版も作られたという。

さらに実践知の具体例を学外に伝えるために、ライブ配信サービスを使って各キャンパスの教員らの活動を紹介。3日間のオープンキャンパスで延べ30万人以上の視聴を導くといった形で、浸透を図っている。

法政大は伝統的にバンカラで男性っぽいイメージが強かった。しかし初の女性トップである田中総長のコミュニケーション重視の姿勢で、新たなイメージが構築されてきた。専門の江戸学に合わせた着物姿のアピール力もあるが、軍事研究禁止など重要テーマについては、総長自ら大学のウェブサイトで意思表示をしている。これにブランディングに見るボトムアップの組織力の向上が加わった。大学は企業と異なり、構成員の自主や自律をとくに重視する。そのうえで組織の力の結集していく同大の手法は、他大学の視線を集めそうだ。

(山本佳世子)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/3/8 05:00)

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