[ オピニオン ]

産業春秋/戦争の記憶

(2019/8/15 05:00)

多くの中小企業を取材してきたが、ある経営者の戦争体験が忘れられない。「手をしっかり握りしめていたら…」。旧満州(現・中国東北部)から引き揚げる途中、わが子と生き別れた話に打ちのめされた。

背後からソ連軍が迫る中、港は引き揚げ船を待つ人であふれかえっていた。「人波にのまれ、一瞬、手が離れたら、子どもの姿がどこにもない。はあ、それっきりで」。戦後は夫婦二人三脚で町工場を切り盛りしてきた。

終戦の日は知っていても、開戦の日を問われて「12月8日」と即答できる日本人は年々、減りつつあるように思う。それも仕方ない。中学・高校の日本史の授業で近代史は時間切れになりがち。昭和恐慌あたりからは自習した読者も少なくないのでは。

昨年は明治維新から150年。“明治100年”だった1968年(昭43)ごろには、中村草田男が昭和の初めに明治への郷愁を詠んだ「降る雪や明治は遠くなりにけり」が、はやり言葉になった。

終戦からきょうで74年。時代は平成から令和へ。昭和は遠くなり、戦争の愚を語り継ぐことはますます難しくなっている。東京五輪・パラリンピックを待つ喧噪(けんそう)の彼方(かなた)から、引き裂かれた親子の慟哭(どうこく)が、かすかに聞こえてくるようだ。

(2019/8/15 05:00)

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