名古屋工業大学、天然樹脂状物質「セラック」を再生医療の細胞培養に

(2024/2/9 12:00)

医療ニーズの高度化に伴い、新規バイオマテリアル(生体材料)開発が活発化している。名古屋工業大学の水野稔久准教授らは、天然樹脂状物質のセラックを用いた生体材料の開発に成功。わずかな細胞修飾で細胞接着性を付与でき、再生医療に利用可能な細胞培養材料として利用を見込む。セラックは菓子類にも使われ、すでに量産プロセスが確立されている。安価で、入手しやすい素材として実用化を目指している。

  • 木の枝に分泌されたセラック㊨、原料のセラック粉末㊥、セラック化学修飾体(左3本)

セラックはインド、タイなどに生息するラックカイガラムシという昆虫が分泌する天然樹脂状物質。樹木の枝に分泌されたセラックを抽出、精製加工して原料にする。身近なところではチョコレート菓子、医薬品錠剤の表面コート剤として利用されている。

天然物のセラックはジャラール酸などの樹脂酸と、アレウリチン酸のような水酸化脂肪酸が交互にエステル結合した構造。そのままでは細胞接着性は持っていない。

複雑な化学構造を持つ高分子鎖の混合物ということから、化学修飾を施したセラックに機能の拡張、新規機能を付与した例はほとんどない。「セラックの化学修飾についての文献は世界的にも少ない。細胞への接着性が付与可能なことを示したのは、世界で初めてだろう」(水野准教授)という。

水野准教授らは2018年に、セラックの抽出精製で独自技術を持つ岐阜セラツク製造所(岐阜市)と共同で研究に着手。オリゴエステルの場合、それぞれの高分子鎖末端に一つずつ存在するカルボキシル基をターゲットに化学修飾を行えば、均一な物性付与が得られると考えた。

エステル結合で疎水・親水性の異なる一連の置換基を用いてセラック修飾体を合成し評価、観察した結果、ベンジル基など疎水性の芳香族置換基を導入すると、細胞接着性が付与されることを確認した。

セラック化学修飾体の表面は繊維芽細胞や表皮系細胞のほか、間葉系幹細胞でも接着、増殖が可能で骨細胞への分化にも利用できるという。また、光によって切断可能なケージエステルのヒドロキシアセトフェノン基を導入したセラック修飾体は、光を照射すると細胞接着性がなくなることが分かった。

天然由来の生体材料は毒性が低く、高い生体適合性、生体吸収性などが特徴。セラック化学修飾体は幹細胞や細胞シートの要素技術とともに、細胞接着性や光応答性という特性を生かすことで新しい医療技術開発にもつながりそうだ。

実用化に向けて、今後は生体毒性試験などを行っていく考え。また、セラックは量産プロセスが確立しているため「セラック修飾体も低コストでの生産が期待できる」(同)と見通す。

セラック化学修飾体の可能性について、水野准教授らは医療分野にとどまらないとする。培養肉などへの利用などに応用も可能と見ており「食料問題への対応策の一つとしても意義がある」(同)と研究を加速する。

(2024/2/9 12:00)

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