[ オピニオン ]
(2015/12/21 05:00)
日銀は、現状の金融緩和を維持した上で補完的措置を講じる措置に出た。買い入れる国債の平均残存期間を延ばしたり上場投資信託(ETF)の購入額を3000億円増やしたりすることで、金融緩和をより円滑にし、緩和効果を実体経済に広く浸透させることが狙い。これまでの政策変更に比べると分かりにくい面があり、株価が乱高下するなど金融市場、産業界の受け止め方は定まっていない。
黒田東彦総裁は記者会見で「経済の下振れリスクに対応したものではなく、追加の金融緩和ではない」と述べ、補完的措置であることを強調した。2013年4月に導入した異次元の量的・質的金融緩和や14年10月の大規模な追加緩和が大きなサプライズだったのとは異なり、小粒な感じは否めない。また「政策の逐次投入はしない。できることは何でもやる」という”黒田節“とも違和感がある。
さらに黒田総裁は「上下双方向のリスクを点検して、必要とあれば、躊躇(ちゅうちょ)なく金融緩和を行う」と明言していた。このため、株式市場は「『躊躇なく』がこの程度か―」と失望感をもって受け止め、株価は下落に転じた。国債買い入れはすでに限界にきており、日銀の金融政策に手詰まり感がみられるのも事実だ。
ただ、ETFの買い入れ拡大は設備や人材への投資に積極的な企業の株式を対象とするため、設備投資や賃上げに対する企業心理を前向きにすることが期待できる。安倍晋三政権は官民対話で企業に対して設備投資や賃上げを積極化するよう働きかけており、政府への援護射撃ともなる。
米国はこのほどFRBが利上げに踏み切り、金融政策の正常化へ一歩を踏み出した。対照的に日本は緩和的な金融政策のまっただ中にある。黒田総裁の任期は18年春まで。在任中に量的緩和策に終止符を打って、金利による政策運営に戻し、大量保有している国債を処理する”出口戦略“を打ち出すのは厳しい状況だ。黒田総裁は出口戦略について「時期尚早」という。しかし、出口戦略にめどをつけるのも黒田総裁の責任であることは忘れないでほしい。
(2015/12/21 05:00)