産業春秋／経済対策と打ち上げ花火

金木犀（きんもくせい）の香りを吸い込みながら眺める秋の花火は、寂しげに違いないと思っていたが、実際は異なっていた。多摩川の河川敷が近づくにつれ押し寄せる人波。迫り来る打ち上げ音とともに、早くたどり着かねばと気持ちが急（せ）いた。

澄み切った夜空に描き出される大輪の花を見上げる人々の表情からは、社会がコロナ禍前の姿を取り戻しつつある喜びがにじみ出る。先週末の多摩川花火大会は４年ぶりの開催である。

日本経済の景色は本当に変わるのか。岸田文雄首相は臨時国会の所信表明演説で「３０年ぶりに新たな経済ステージに移行できるチャンスがめぐってきた」と強調し、「変化の流れをつかみ取る」と繰り返した。

近くまとめる総合経済対策の柱の一つには「物価高を乗り越える国民への還元」を掲げ、所得減税を念頭に「税収増の一部を還元し、国民負担を緩和する」と表明した。デフレ脱却への決意がにじむ。

ただ今回の総合経済対策で内閣支持率が回復するかは不透明だ。防衛費増額に充てる増税の時期や、少子化対策の財源問題など積み残した課題は少なくない。せっかくの総合経済対策も、有権者の目には総選挙狙いの打ち上げ花火と映っていないだろうか。