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[ 中小・ベンチャー ]
(2017/5/4 05:00)
日本貿易振興機構(ジェトロ)が中堅・中小企業のロシアビジネスを後押ししている。2016年5月の日ロ首脳会談で日本側が提示した8項目の経済協力プランの一つが中小企業ビジネスの促進で、これを実行に移している。ロシアビジネスはこれまで資源開発の商社や完成車メーカーなど大手企業が中心だった。中小企業まで裾野を広げられるか注目される。(大城麻木乃)
官民プラットフォームも本格始動
「予想以上に応募が多い」。ジェトロビジネス展開支援部の田中一史総括審議役は驚きを隠せない。ジェトロの中小企業向けロシアビジネス支援は、16年12月から本格始動。19年3月までの約2年間で150社の支援が目標だが「すでに70社の支援に対応している」(田中氏)。勢いのある新興国を指す“BRICS”という言葉が消えつつある中、ロシアへの関心も薄れていると思いきや、意外にも希望する企業は多いという。
背景にはロシアビジネスは中小企業にとって語学や手続き面などハードルが高いことがある。それだけに「公的機関が支援するなら挑戦してみたいと思う企業が多い」と田中氏は指摘する。
【強み・弱み分析】
ジェトロが支援する企業の多くがロシアビジネスがほぼ初めてで、支援はまず企業の強みや弱みなど「SWOT式」で分析することから始まる。その際に、ジェトロが契約した商社OBやコンサルタントらロシアビジネス専門家と企業が面談。どのような稼ぎ方をすればよいのか専門家が一緒に考え、助言する。
次に、ビジネス戦略を実行に移す際に引き続き専門家の支援が必要な場合は、簡易審査を経て継続的に支援を受けるステージに移る。専門家はロシアへの出張に同行したり、商談会でパートナー探しを手助けしたりして、企業を至近距離でサポートする。相談料や専門家の出張経費はジェトロが負担する。
これまで応募してきた企業には、寒いロシアの国情に合わせ寒冷地対策グッズを扱う企業や雑貨、県産品、機械関係、専門商社など業種は多岐にわたるという。
【日本ブース設置】
今後、ジェトロは7月にロシア中央部のエカテリンブルクで開かれる総合産業博覧会「イノプロム」と、9月に首都モスクワで開かれる食品見本市「ワールドフードモスクワ」に出展。日本企業を集めたブース「ジャパン・パビリオン」を設置し、日本製品を売り込む施策も講じる。二つの展示会ともジャパン・パビリオンの開設は初めてで「露出を増やし、日本製品の認知度を高めていきたい」(田中氏)という。
また、ロシアビジネス支援事業は、経済産業省をはじめ農林水産省、北海道庁、新潟県庁、メガバンク、地銀など企業のロシアビジネスを支援する官民がプラットフォームを構築。ジェトロが対応できない部分は他の組織がサポートするよう試みている。こうしたプラットフォームも、これから本格的に動く見通しだ。
足元、ロシアについてはシリア情勢を巡り欧米との対立が激化している。米国と同盟関係にある日本の経済界にとっても逆風が吹くとみる専門家もいる。国際情勢には注意を払いつつも、専門家の意見を聞きながら着実に中小企業がロシア市場を開拓することが期待される。
日ロ経済協力の機運高まる
【資源依存脱却】
ロシアは人口1億4600万人と日本より約2000万人多く、国土面積は1710万平方キロメートルと日本の45倍も広い。主な産業は石油や天然ガスなどの鉱物資源で、輸出の6―7割を資源系が占める。
このため、資源価格の変動が経済に大きな影響を与え、14年に1バレル100ドル前後だった石油価格が15年に50ドル前後まで下がったことにより、15年は実質国内総生産(GDP)成長率がマイナスに転落。ウクライナ侵攻に伴う欧米の経済制裁も響き、近年、景気は芳しくなかった。
資源に頼った経済を脱却しようと、プーチン大統領は日本との経済協力に期待を寄せている。
16年5月の日ロ首脳会談では、安倍晋三首相が(1)医療(2)都市づくり(3)中小企業交流(4)エネルギー開発(5)産業多角化(6)極東開発(7)先端技術協力(8)人的交流―の8項目からなる協力策をロシア側に提示。プーチン大統領は歓迎する姿勢を示している。
このうち、ジェトロは中小企業交流の一翼を担い、日本の中小企業の対ロ輸出の拡大やロシア企業のパートナー発掘支援に取り組んでいる。
16年1月に20ドル台まで下がった油価は足元50ドル前後まで回復。ロシアの実質GDP成長率は16年10―12月期に8四半期ぶりにプラスに浮上し、経済は好転する兆しがある。安倍首相は4月27日にモスクワを訪れ、再びプーチン大統領と首脳会談を実施。改めて経済協力を推進することで一致した。
両国に協力の機運があるうちに、ロシアを輸出先候補と見て準備するのも一手かもしれない。
ロシアビジネス専門家はこう見る
《菅原信夫氏(商社OB)、現地見本市でニーズ把握が得策》
欧米の経済制裁でロシアは製造業に必要な材料や部品が調達しづらくなっている。そこでロシアは国産化を推し進めて輸入代替に取り組んでおり、現地の見本市では輸入代替をテーマにしたブースが特別に設置されている場合がある。
日本企業としては、見本市を見てニーズを把握することが得策だ。例えばロシアは計測器や産業機械自体はあっても、その機械に使われるセンサーやスイッチなどの部品が足りていない。こうした部品を現地企業と協力して生産するのも手だろう。
日本人が直接ロシアに行ってビジネスをするのは大変な苦労を伴う。治安に対する認識一つとっても日本人とロシア人とでは大きく異なる。提案としては、現地代理店を活用するなどしてロシアビジネスはロシア人に任せた方がよいとみる。
最近は日本で働きたいロシア人も増えてきた。そうした人材を積極的に採用し、日本企業は日本に居たままで、輸出で稼ぐというシナリオも悪くない。(談)
《ジュラフスキー・グレーブ氏、信頼できるパートナーと緊密に》
日本企業にとってロシアでのビジネスチャンスは農産物や水産物加工が挙げられる。ロシア人の健康志向は年々高まっており、安心できる長期保存技術や減塩で油を抑えた日本風の味付けはニーズが高い。環境対策も注目分野だ。ゴミ処理場が不足しており、先進的なゴミ処理技術や製品のリサイクル技術を日本から導入したいとの思いがある。
ロシアでは日本製品は壊れにくく品質が高いというイメージが定着している。しかし、ここ数年はロシア通貨ルーブルが下落し、日本製がかなり割高になっている。2013年に1ルーブル3・3円だったのが、16年1月に同1・4円まで下落。17年4月は2円まで戻しているが、まだ円高だ。価格競争力をいかにつけるかが課題だろう。
また信頼できるパートナーを見つけることも重要だ。ロシアは通関手続きが複雑で法律がよく変わる。貿易手続きに慣れたロシア側のパートナーと緊密に連絡を取りながら最新の情報を得てビジネスをするのが望ましい。(談)
(2017/5/4 05:00)