[ ロボット ]
(2017/7/22 19:30)
話しかければ答えてくれるパーソナルアシスタントに代わる「次世代の人工知能(AI)」が話題になっている。スタートアップ企業に詳しい米フェノックス・ベンチャーキャピタル(VC)のアニス・ウッザマンCEOは「米国には、アマゾン・エコーの『アレクサ』やマイクロソフトの『コルタナ』、グーグルの『グーグル・アシスタント』といったパーソナルアシスタントを超え、次世代のAI製品を生み出そうという機運がある」と話し、思いもつかない製品・技術の登場に期待を寄せている。(編集委員・碩靖俊)
頭一つ抜けた存在
ウッザマン氏によると、AIの開発で頭一つ抜けた存在は、ジーボ(Jibo)、アフェクティバ(Affectiva)の両社という。ともにマサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップ企業で、次世代のAIを生み出す最有力候補と見ている。
ジーボはファミリーロボット「ジーボ」の開発で知られる。このロボットは誰でも親しみやすい姿をしているほか、音声認識、感情認識、機械学習、自然言語処理、感情表現ディスプレー、動作などの最先端技術を組み込んでいる。人の感情や会話、周囲の出来事を把握した上で、コミュニケーションできる機能が売りだ。
これまで販売延期が相次いだが、依然、心待ちにしているファンが少なくないという。日本の一般ユーザー向けには、順調に行けば、2017年末にも発売される予定。販売価格は5万円から7万円になる見通し。アップルのiPhoneに比べて価格が安いところも強みの一つと言える。
同社には電通ベンチャーズ、KDDI、セガサミーホールディングス(HD)、CACHDをはじめ、エイサー(Acer、台湾)、サムスン(韓国)、LGユープラス(同)、NetPosa(中国)など、国内外の大手企業が投資し、ジーボに寄せられた期待の大きさがうかがえる。
画像から感情読み取り
アフェクティバは、独自の感情認識技術(感情AI)を組み込んだソフトウエアを開発。1400件超のブランドで消費者の感情テストに利用されるなど、すでに多くの実績がある。日本では6月に開かれた東京都議会議員選挙のPRイベントで、凸版印刷とCACHDが協力し、感情AIを体験できるコンテンツを公開、イベントを盛り上げた。
このソフトはパソコンやスマートフォンで撮った画像の顔の表情から、さまざまな感情を読み取ることができる。これまでアフェクティバが蓄積した世界75カ国、500万人、700億件の表情データを基に、その表情がどんな気持ちを示すのかを機械学習させてデータベース化。画像に映った顔の表情と照らし合わせて、感情を判断する仕組みだ。
「例えば、ゲームの分野では、開発者がプレイヤーの感情に基づいてゲーム内容が変わるように設計できる。医療の分野ではこれまで難しかった自閉症の判定などに使え、患者の心の状態に応じるアプリケーションの開発も可能だ」。ウッザマン氏はこう話し、感情AIの幅広い分野での活用を展望する。
激化する開発競争
AIの開発については、国レベルで巨額の投資をするところもあり、中国、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、英国、カナダはきわめて熱心とされる。中でも、ドバイは独自のスマートシティー構想があり、犯罪抑止に向け、スペインのパル・ロボティクスが開発したロボット警察官を採用するなど、ハイテク導入にも積極的だ。今後、ジーボやアフェクティバの成長が、さらに投資意欲を刺激するだろう。
アマゾン、マイクロソフト、グーグル、アップルもAIに関する研究の手を緩めていない。マイクロソフトが16年末、AIに特化したベンチャーファンドを組成し、17年7月までの6カ月間で、AIの開発に優れたスタートアップ7社に投資することを決めた。グーグルも7月に入って、AIに特化したファンドの「グラディエント・ベンチャーズ」の設立を発表した。
今後、AIの開発をめぐる争いがますます激しくなっていきそうだ。そして、この競争が行き着く先には、SF小説さながらの社会が広がっているに違いない。
(2017/7/22 19:30)