[ トピックス ]

深層断面/アジア勢に対抗 新たな投資視野−炭素繊維、勝利への布石

(2017/4/24 05:00)

炭素繊維メーカーによる新たな投資が視野に入ってきた。アジアの新興勢力が生産力を急速に高める中、投資の停滞はシェア低下に直結するとの危機感を強めている。日本側はこれまで以上に他国の動向を注視し、既存工場の増強や同業の買収を矢継ぎ早に打ち出していきそうだ。日本メーカーの“次の一手”を探る。(小野里裕一)

東レ/産業用強化 ライバル迎え撃つ

  • 東レは風力発電用ブレードや自動車向けなど産業用需要の取り込みに力を入れる(写真はイメージ)

「拡大する産業用にしっかりと食い込みたい」。こう強調するのは炭素繊維生産量で世界首位の東レの日覚昭広社長だ。風力発電用のブレード(羽根)や圧力容器、自動車部品などの産業用は需要の増加が見込まれる分野の一つ。成長市場の取り込みを加速し、事業拡大の“原動力”とする戦略だ。

東レは米航空機大手ボーイングと1兆円超の炭素繊維複合材料の供給契約を結ぶなど、高機能品を使う航空分野を主力に規模を拡大してきた。しかし、航空機メーカーの増産ペースが当初見込みより遅れている影響で、航空機向けの炭素繊維は在庫の増加が目立つ。これに伴い出荷量が落ち込み、想定外の苦戦を強いられている。

東レは2016年12月に通信や防衛、航空機などを手がけるフランスの複合企業であるサフランと炭素繊維の直接供給契約に踏み切るなど、航空機を最重点分野に据える姿勢にぶれはない。しかし、その一方での産業用分野への積極投資は“追われるトップメーカー”の焦りとも読める。

東レが狙う産業用は「ラージトウ(LT)」と呼ぶ汎用炭素繊維の主力市場だ。高機能品に比べて物性は劣るが、価格競争力が高い。

東レの次の投資対象になりそうなのは2013年に580億円で傘下に収めた米ゾルテック(ミズーリ州)だ。東レグループで唯一、LTを生産する。東レは2月にゾルテックのメキシコ工場(ハリスコ州)に約100億円を投じ生産能力の倍増を決めたが、ハンガリー工場(コマーロムエステルゴム県)は買収後手つかずのまま。炭素繊維の市場として成長している風力発電は欧州が主戦場。早期にハンガリー工場の設備増強の検討に入る公算は大きい。

三菱ケミカル/自動車向け 先行投資生きる

  • プリウスPHVのバックドアの骨格部材に成形した三菱ケミのSMC

「これからは自動車用の炭素繊維を伸ばす」。三菱ケミカルの越智仁社長の狙いは明確だ。3月にはトヨタ自動車が新型「プリウスPHV」のバックドアの構造部材に採用し、量産車が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部品を採用するのは珍しく、話題をさらった。

三菱ケミカルは自動車用途の拡大を見越し、炭素繊維中間材(プリプレグ)や成形技術の開発に先行投資してきた。量産車への採用が増え、自動車需要が本格化すると見られる20年以降に向け、これまでの“蓄積”を事業へ落とし込む作業を本格化する構えだ。

同社が自動車市場を狙ううえで重要な戦略製品の一つが、長さ数センチメートルに切った炭素繊維を含んだ樹脂シート「シート・モールド・コンパウンド(SMC)」だ。SMCは2―5分程度の短時間で成形できる。

連続した炭素繊維を使う一般的なプリプレグよりも複雑な形状の部品を得意とし、生産性の高さと設計の自由度を求める自動車メーカーへの訴求力は高い。

同社は現在、豊橋事業所(愛知県豊橋市)にSMCでは世界首位の年産3000トンの生産設備を持ち、ドイツに建設した同1000トンのプラントが近く稼働を予定する。ドイツ拠点は同6000トンまで能力を引き上げる構想を持つ。同社は「自動車の炭素繊維部品は欧州がリードする」(三菱ケミカル幹部)とし、需要動向を見ながらドイツ拠点への投資を続ける模様だ。

同社も東レ同様、需要拡大が続くLTの増強を急ぐ。LTでの投資対象は、独素材大手SGLグループから4月に買収を完了した米ワイオミング州工場。足元のLT生産能力は年1000トンだが、早期に能力が不足する見通し。同工場は最大4000トンまで拡張余地があり、追加投資が視野に入る。

帝人/航空機向け 熱可塑性樹脂で攻勢

  • 帝人の炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板の部品を採用する欧エアバスのA350XWB(エアバス提供)

帝人は事業の大部分を占める炭素繊維のみの販売から脱却し、炭素繊維の加工度を上げた「中間材」の扱いを増やす戦略にかじを切っている。現在の売上高に占める中間材の比率は約20%。帝人子会社で炭素繊維事業を展開する東邦テナックスの乾秀桂社長は「航空機分野に注力し、(中間材の比率を)30年頃には80%に引き上げたい」と明かす。

帝人が航空機市場を開拓する“突破口”として期待を寄せる中間材がある。欧エアバスが14年に中型機の1次構造部品に採用した「熱可塑性樹脂」使用の炭素繊維積層板だ。炭素繊維で強化する熱可塑性樹脂が航空機に使われるのは業界初で、関係者を驚かせた。

同製品は航空部品で主流の炭素繊維で強化した熱硬化樹脂部品と比べ、成形時間が短く、リサイクル性にも優れている。乾社長は「メーカーへの提案を推進し、確実に広げたい」と意気込む。採用が拡大すれば、ドイツに持つ生産設備の増強が現実味を帯びそうだ。

世界市場は激戦区/新興国勢との価格競争に危機感

炭素繊維は原料のポリアクリロニトリル(PAN)繊維やコールタールピッチ繊維を不活性雰囲気下で焼成し、炭素以外の元素を離脱させた無機繊維。比重は鉄の4分の1で、比強度は10倍。寸法安定性が高く、耐熱性や耐薬品性に優れる。

通常はエポキシなど合成樹脂と組み合わせ複合材料として使う。構造制御が比較的容易なPAN系が生産の大部分を占め、用途は航空機や圧力容器、風力発電ブレード、自動車部品、スポーツ用具など多岐にわたる。

足元の年間需要量は約6万トンで、うち2万トン程度が汎用品のLTだ。これまでは20年頃の需要量を14万トン台と見る向きが多かったが、航空機向けの低迷を受け、同10万―11万トンに下方修正する見方が広がっている。

炭素繊維は台湾やトルコなどの新興勢力の品質向上が進むほか、欧米メーカーも需要の取り込みに躍起だ。汎用分野では中国メーカーの規模拡大も懸念材料。中間材や成形技術の開発は日本勢が大きくリードするが、炭素繊維のみの販売では早晩、新興国勢との価格競争に巻き込まれるとの危機感がある。

(2017/4/24 05:00)

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