[ 科学技術・大学 ]

【電子版】中性子星合体で重力波、米欧装置が初検出―重い元素の生成裏付け

(2017/10/17 10:30)

  • 中性子星同士の合体による重力波放出のイメージ(米カリフォルニア工科大学・ジェット推進研究所提供)

巨星が寿命を迎え超新星爆発を起こした後に残る中性子星が、別の中性子星と合体する際に発生した重力波を初めて検出したと、米国などの国際チームが16日発表した。米欧3カ所の観測装置で8月に捉えた。重力波は2015年9月から4回検出されているが、いずれもブラックホール同士の合体で生じたものだった。

今回の現象は日本のすばる望遠鏡(米ハワイ島)など各地の天文台、人工衛星でも観測され、発生場所は南半球で見えるうみへび座の方向に約1億3000万光年離れた銀河「NGC4993」と特定された。さらに、中性子星同士の合体によって金やプラチナなどの鉄より重い元素ができたとの説が、初めて観測で裏付けられた。

検出は日本時間8月17日午後9時41分。米国2カ所にある観測装置「LIGO(ライゴ)」と、イタリアにある装置「Virgo(バーゴ)」で検出した。解析の結果、直径わずか約20キロメートルで質量が太陽の1・1~1・6倍ある超高密度の中性子星同士が、合体する際に発生した重力波と分かった。

重力波の検出は約100秒間続いた。直後にはX線よりエネルギーの高いガンマ線の爆発的な放出現象「ガンマ線バースト」が、米フェルミ宇宙望遠鏡などにより観測された。続いて南米などの天文台や衛星が、目で見える光や赤外線、電波、X線で観測し、鉄より重い元素の放出が確認された。

宇宙が約138億年前に誕生した際は、水素やヘリウムのような軽い元素しかなかった。その後、恒星が寿命を迎えて超新星爆発を起こすまでの核融合で、鉄までの元素が生成され、鉄より重い元素は中性子星の合体で生じたと考えられている。

アインシュタインが約100年前に予言した重力波は15年9月に初めてLIGOで検出され、チームを率いた米研究者3人に今年のノーベル物理学賞が授与される。(時事)

金・プラチナ、中性子星合体で生成―同時に観測、仮説証明へ

金やプラチナ、レアメタル(希少金属)など、人類にとって有用な重い元素はどこで、どのように生まれたのか―。今回は中性子星同士の合体で生じた重力波が初めて検出されるとともに、重い元素の生成を示す証拠が得られた。研究者は「謎の解明に大きく近づく」と評価する。

現在の宇宙には多様な元素が存在しているが、誕生直後の宇宙には水素やヘリウムなど陽子が1個や2個の軽い元素しかなかった。より重い炭素(陽子の数=原子番号6)や酸素(同8)など、鉄(同26)までの元素は、その後に生まれた恒星内部の核融合反応で作られた。しかし、鉄より重い元素は恒星内部でも作れず、生成過程はよく分かっていなかった。

以前は、寿命の尽きた星が最後に起こす超新星爆発で生成されるとの説が有力だったが、この10年で研究が進み、中性子星同士の合体が有力視されるようになった。

2014年にスパコン「京(けい)」を使ったシミュレーションで、中性子星同士の合体で生成される重い元素が、実際の太陽系での分布とほぼ一致することを示した東邦大学理学部の関口雄一郎講師は「今回の観測で、中性子星の合体が起源の可能性が高まった」と話す。

今回は重力波に加え、さまざまな現象が世界各地の天文台や人工衛星で観測された。光や電波(電磁波)のほか、重い元素生成の「証拠」となる赤外線放射なども確認されたという。関口講師は「重力波と同時に赤外線での情報が得られたのは非常に大きい」と評価した。

高エネルギー加速器研究機構の久徳浩太郎助教も「中性子星合体説のかなり強い示唆になる」と指摘。「中性子星の合体を初めて見ることができたのもすごいが、同時に光で見ることで、どういう中性子星だったかも分かる」と話した。

その上で「中性子星の情報が分かると、素粒子物理学に対しても大きな示唆があるはずだ」とさらなる観測に期待を寄せた。(時事)

「すぐ見つかると思わず」、日本の研究者も貢献

中性子星同士の合体で重力波が発生した後には、高エネルギーの電磁波であるガンマ線や可視光(目で見える光)、赤外線などが放出された。日本の国立天文台や広島大学、名古屋大学、甲南大学などの研究者も、人工衛星や地上の望遠鏡を使った観測、分析に貢献した。

日欧が開発に協力した米フェルミ宇宙望遠鏡チームのメンバー深沢泰司広島大教授は、重力波とガンマ線の爆発的な放出「ガンマ線バースト」を伴う中性子星同士の合体について、「すぐに見つかると思っていなかった。早かったなという印象だ」と話した。

ガンマ線バーストは巨星が寿命を迎えて超新星爆発を起こした際に長く続き、2秒以下の短い場合は中性子星同士の合体で発生するとの理論が有力だった。今回初めて実証されたが、深沢教授は「ガンマ線が地球の方向に放出されなかったら、重力波だけしか観測できなかった」と説明した。

可視光や赤外線では、国立天文台のすばる望遠鏡(米ハワイ島)や名古屋大のIRSF望遠鏡(南アフリカ)などが観測。中性子星同士の合体で鉄より重い元素が生成した様子を捉えた。

国立天文台水沢キャンパス(岩手県奥州市)のスーパーコンピューター「アテルイ」でシミュレーション研究を行った田中雅臣助教は、「予想していた性質が実際に観測で見えて来たときは非常に興奮した」と語った。(時事)

(2017/10/17 10:30)

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